情報Ⅰのカリキュラムデザイン~学習活動を中心とした繰り返し学ぶ授業設計~

世田谷学園中学校・高等学校 神藤健朗 先生

年間計画を立てるときに意識する4つのこと

今回、年間計画を立てるにあたり、次の4つのことを意識して作成しました。

まず1つ目は情報教育の目標の3観点と呼ばれるものです。
これは小学校から高等学校までの12年間をとおして子どもたちが身につけるべきことが書かれている内容です。情報Ⅰができた時に、プログラミングやデータの分析など「科学的な理解」に大きな注目がされました。もちろん、情報Ⅰで身につけることが大切ですが、それ以外の情報活用の実践力や情報社会に参画する態度を身につけることも大切になります。

それは、共通教科「情報」の学習目標にも書かれていることです。
実際に学習目標を見てみると、「科学的な見方・考え方」に裏付けられた、情報技術の活用、情報社会に主体的に参画する力を身につけることが書かれています。科学的な裏付けがあることによって、深く掘り下げて考えること可能になります。生徒の身近な題材を用いて、さまざまな活動を授業の中で行うことが深い理解につながるのではないかと考えられます。

また、今回の学習指導要領では教科連携も強く意識されています。
データの分析の内容に関しては、中学校数学~高等学校数学Bにかけて、基本統計量だけでなく正規分布や仮説検定なども扱っています。数学的な裏付けは数学で行い、データの読み取り方は情報で行うなど、異なるアプローチを行うことで生徒の内容理解も深まります。

プログラミングでは、最大公約数を求める際にユークリッドの互除法を使用すると、非常に大きな数字同士の最大公約数も一瞬にして計算できる様子を確認できます。数学の有用性も合わせて体験することができるでしょう。また、物体の運動の様子をグラフ化するなど、数式ではイメージしにくいものも容易に表現できます。

モデル化とシミュレーションの内容では、生徒に身近なガチャのシミュレーションも効果的です。二項分布や期待値、大数の法則などと関連付けて話をすることができます。

地域や世界のデータ分析をする際は、地理情報システムを使って地図を色分けするなど効果的な見せ方もできます。

このような様々な活動が他の教科の学びを深めることにつながるでしょう。そして、情報の内容は総合的な探究の時間の基礎基本になります。情報Ⅰをどの学年に配当するか、また、情報Ⅰの各内容をどの時期に実施するかによって学習効果も変わるでしょう。他教科の学習内容をちょっとでも意識すると授業の進め方や効率のよさも大きく変わってくるでしょう。

最後に、共通テストへの対応です。
共通テストの出題方針を確認してみると、知識・技能に重きが置かれているのではないことがわかります。知識に裏付けられた思考力・判断力・表現力が求められます。また、子どもたちに身近な題材が用いられ、出題されます。テスト対策となると座学の要素を増やさなければいけないという錯覚に陥りがちですが、生徒に身近な題材を用いた授業を進めることも必要ではないかと考えられます。

知識を覚えさせるのではなく、復習するときに体験と関連付けて思い出せるような仕掛けを作る

そこで、今述べたような4つの要素を意識して、バランスをとりつつ年間計画を立てることが大切になってきます。

ただ、本校もそうですが、高校1年次に情報Ⅰを設置して、共通テストを受けるのが2年後という学校も多くあるかと思います。2年後にどれだけ覚えているかというのはなかなか難しい問題です。そこで、2年後は忘れているという前提で授業を構成するはどうでしょうか。知識を覚えさせるのではなく、忘れないような体験的活動を多く取り入れ、復習するときに体験と関連付けて思い出せるような仕掛けを入れてみてはどうでしょうか?また、年間計画の中で繰り返し学ぶような仕掛けを取り入れ、思い出せるような工夫をしてみてはどうでしょうか。これらのことを意識して、今年度私が実施した年間計画は次のようなものになります。

1学期から2学期は、身近な題材を用いた学習活動を中心に構成しました。繰り返し学びつつ段階的に内容が難しくなるような仕掛けを入れてあります。3学期は1学期から2学期までの復習を入れつつ、より高度な内容を扱っています。実際にどのように内容を進めたのか、2つの例を紹介したいと思います。なお、年間計画の中に★印がついているものは、河合塾の「キミのミライ発見」というWebページで詳しく事例が紹介されています。興味がありましたら確認してみてください。

キミのミライ発見 事例249 身近な題材を例に繰り返し学ぶ プログラミング
●キミのミライ発見 事例262 都道府県ランキングを使って相関関係を考える

まず、1つ目は過去の炎上拡散事件の分析です。炎上拡散事件の調査を通して、情報社会の内容を確認する構成になっています。合計4時間で実施しています。
1時間目は過去に炎上拡散した事件を3つ調査してもらいます。1つの事件について3つ以上のWebページを確認し、記者の立場の違いによって伝え方がどのように変わるのかも合わせて確認させます。多面的にものを見る力を養うような工夫を入れています。
2時間目は1つの炎上拡散事件に絞って、時系列に事件を分析してもらいます。複数の記事にあたらないと、どのような事件だったのか全容をつかむことができません。また、事件の当事者だけではなく情報を広めた人も場合によっては罪に問われます。火消しまでの流れも含めて調べることで、より深い内容理解につながっていきます。
3時間目は、罪名に関する調査です。炎上拡散事件ではどのような罪に問われることになるのか考えてもらいます。法律事務所のWebページを見ると、さまざまなことが書かれています。読み比べながら、どうすると罪に問われるのか、罪に問われない場合はどのような条件のときか考えることで、各法令の理解が深まります。
最後に、4時間目では教科書の内容と照らし合わせて内容整理を行います。身近な学習活動を行っているため、教科書に書かれていることの理解が深まります。副教材を使った問題演習を入れることで、基礎基本の定着にもつながります。

2つ目の例は、データの分析とモデル化とシミュレーションの内容です。合計5時間で実施しています。
1時間目は箱ひげ図を用いたデータ分析です。ストップウォッチを使って10秒を計測し、一人20件以上のデータを取得します。平均値や四分位数を求め箱ひげ図を作成します。同じ平均でも箱ひげ図の形は千差万別になること、平均ではデータの分布を判断できないことに気づきます。クラス全員や学年全員のデータを集めると、ヒストグラムが正規分布に近づくことも合わせて伝えることができます。
2時間目から3時間目にかけてはガチャのシミュレーションを行います。2時間目は予想を立てて、HTMLとJavaScriptを使って作成した1%のガチャを何度も引いて予想を検証します。3時間目は表計算ソフトを用いて結果を数学的に検証します。あたりの確率を変えて検証するなど、生徒は興味関心を持って取り組んでいました。
4時間目から5時間目にかけては、都道府県ランキングを用いた相関分析を行います。4時間目は様々なデータを組み合わせて相関係数を確認します。相関のあるもの、ないものさまざまですが、自分が興味を持ったデータの組み合わせを3つ提出します。5時間目は、その中から1つを選び、なぜそのような相関になったのか考える活動を行います。他の要因が相関にかかわっている可能性もあります。どのようなデータがあれば、深い分析が可能になるかということも含めて考察をしてもらいます。
最後の6時間目に、この単元で学習した内容を教科書と照らし合わせて解説を行っていきます。

このように、学習活動と教科書を使ったまとめを繰り返しながら授業を実施しています。
それでは、繰り返し学ぶ工夫について、情報Ⅰで扱う4つの分野の配置をからめて説明します。

たとえば、「情報社会の問題解決」の内容は、炎上拡散事件の調査では個人情報や法令、情報社会とのかかわり方について、動画作成では肖像権について、3学期は個人情報やPOSシステムの内容について扱っています。

「コミュニケーションと情報デザイン」の内容は、SNS、動画の仕組みとデジタル化、n進法の変換、情報デザインなどについて扱っています。特にn進法の変換については、生徒の苦手意識が非常に強いため、何度も繰り返し扱うように心がけています。復習を入れながら繰り返し行うことが、理解につながっています。非常に大切な知識ですので時間をかけて扱うようにしています。

「コンピュータとプログラミング」の内容は、1学期にアルゴリズムについて扱います。プログラミングは行わず、箇条書きで手順を書かせています。2学期に入ってガチャやおみくじなど身近な題材を用いたプログラミングを行います。3学期は改めて基本構文を復習したうえで、典型的なアルゴリズムについて学習を行います。交換法を用いた並べ替えのアルゴリズムは2重ループが用いられ非常に複雑です。ユークリッドの互除法も変数の値を丁寧に入れ替えていく必要があり、基本構文の理解が前提となります。動画解説を用意して、個人個人のペースで学習できるように授業を構成しています。モデル化とシミュレーションの内容は2学期と3学期に取り入れています。

「情報通信ネットワークとデータの活用」では、1学期にPC教室のネットワーク調査を行い、各端末にどのような内容が設定されているのか、またその設定内容が何をあらわしているのか確認を行います。その後、3学期に改めて自宅のネットワーク調査を行い、大学生になったときに自分の端末管理ができるような知識習得を図っています。

まだまだ改善の余地はたくさんありますが、以上の内容が今年度私の行った情報Ⅰの授業計画になります。学習活動は、他教科の学びの状況を踏まえて組み換え可能です。生徒にとって身近な題材を増やしながら、また生徒の理解が深まるタイミングを模索しながら次年度の学習計画を立てていこうと考えています。

最後に、各学校の特性によって力の入れる項目が変わってくると思います。SSHの学校、国立大学進学率の高い学校、就職する生徒の多い学校など様々です。しかし、「問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し,情報社会に主体的に参画するための資質・能力を次のとおり育成する」という共通教科「情報」の目標を忘れることなく、バランスを取りながら年間計画を考えてもらえればと思います。

神藤先生の年間指導計画(ダウンロード)
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