私の年間指導計画~情報科的「物語」の作り方~

日出学園中学校・高等学校 武善紀之 先生

情報Ⅰ」の特徴とストーリーの重要性

情報Ⅰは「問題解決」が重要なキーワードとして位置付けられ、「情報デザイン」「データサイエンス」「プログラミング」といった手法を使って、「コンピュータを活用して問題解決が出来るようになる生徒の育成」を大きな目標としています。しかし、この「問題解決」と同じくらい重視されているのが「コンピュータサイエンス」の学びです。この2つの組み合わせはなかなかに難しく、単元によって授業がぶつ切りのものになってしまいがちです。

ここで大切になることが、「年間でどのようなストーリー(年間指導計画)を作るか」です。技術を扱う情報科では、以前からこの「ストーリー(≒目的、流れ)」が重要視されてきました。「ストーリー」を意識しないと、単に矢継ぎ早な技術習得の時間となってしまうからです。各社の教科書を見比べて見て下さい。学習指導要領の順番で作っている会社は案外少なく、各社が独自の視点でストーリーを持っていることがわかります。教科書の持つストーリーを読み解く上でも、自分で年間指導計画を作ることは非常に役立ちます。

情報科的「物語(指導計画)」の作り方

ストーリーの作成は、「ミステリー小説」の執筆に似ています(私は大学時代、推理小説研究会に所属していました)。序破急/起承転結、導入、伏線、山場、叙述トリック(メタ視点)等は、授業作りにそのまま活かせる手法でした。これを体系化すると、次のスライドのようになります(具体例は後述)。また、完成した指導計画はコチラです。

1回1回の授業を回すのに精一杯で年間計画まで立てる余裕はない、と思われる方もいるかもしれません。しかし、個別のネタについては、情報科は実はとても豊富な教科なのです。全国の教員が実践事例を発表する「全国高等学校情報教育研究会研究大会Webサイト(全高情研)」、全高情研も含めた様々な発表の取材記事が掲載されている「キミの未来発見(河合塾)」、更には授業でそのまま使える授業動画が単元ごとに掲載された「高等学校情報科に関する特設ページ(文部科学省)」。おそらく全国の情報科教員に共通する3大コンテンツかなと思います。私も過去には、多くの実践を活用させていただきました。これらの実践例をパズルのように組み合わせて、年間指導計画を作ることも良いと思います。 

【具体例1】各学期への割り振り

計画を立てる際に、まずは「自分が生徒達に伝えたいテーマ」をはっきりさせます。ここで、年間計画の「はじめ」と「終わり」が決まります。例えば同じ「プログラミング」を教えるにしても、「プログラミングでモノづくりを教える」「プログラミングで問題解決を教える」「プログラミングでコンピュータサイエンスを教える」では、それぞれストーリーが異なってきます。例えば私は、「メディアリテラシー」「倫理、思想」といったテーマを重要視しているため、年間の「はじめ」と「終わり」ではコンピュータを使わないような授業設計をしています。情報科≠PCを印象付けるためです。

はじめと終わりが決まったら、次に学校行事や進路等との関係性を見ます。例えば本校では、情報を高1で開講していますが、11月には既に文理選択(+ある程度の進路選択)が行われます。この文理選択に間に合わせるために、「プログラミング」や「データサイエンス」の一部については、10月前までに扱うようにしています。他には、問題解決の宝庫である「学園祭」の時期に何をぶつけるかも、年間計画の大きなポイントとなります

学期ごとの割り振りを終えたら、次に1コマ単位で調整を掛けます。情報科には「理論と紐づいた実習」も多くありますが、「理論を学んだ後に、確認するもの」として実習を配置するか、「理論の前に、体験的に学ぶもの」として実習を配置するかで、得られる効果も変わってきます。これは自身のテーマ性や理論分野の難易度、生徒観によって異なるもので、正解はありません。例えば私の場合、情報デザイン単元については、「ピクトグラム実習」を振り返る流れで「知的財産権」や「ユニバーサルデザイン」を扱っています。更にその後には「デジタル化」の理論を扱い、「ベクタ形式・ラスタ形式」の比較といったパートでは、ピクトグラムの実習を思い起こさせるように授業設計しています。

【具体例2】学期内の調整

おわりに

自分でストーリーを作っていくことで、学習指導要領に込められた「つながり」、教科書の根底にある「つながり」を、説明できるようになります。ストーリーさえ構築できれば、授業のぶつ切り感も生じません。例えば、「コミュニケーションと情報デザイン」においては、「メディアの進展」をきちんと扱うことで、デジタル化理論を学ぶ意味付けができます。また、「情報通信ネットワークとデータの活用」においては、「情報システム=『ネットワーク』という土台の上で、『データ』が動く」という図式を説明すれば、「ネットワーク」と「データサイエンス」のつながりを自然に持っていくことができます。

情報科は、非常に面白い教科です。年間指導計画を見ると、その人が大事にしたいことが見えます。そして、その人が大事にしたいことが見えると、その人の人柄がわかります。翻って、自分自身の自己理解も進みます。是非、年間計画作りを楽しんで、魅力ある授業づくりに役立てて下さい。

武善先生の年間指導計画(ダウンロード)
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