<開催レポート>
高校探究プロジェクトが2022年度に実施した「指導主事等対象のオンライン対話」をきっかけに発案された「地域を越えた共創・協働型研修」。
2023年度、広島県立教育センターの指導主事の方が中心となり、青森県や大分県の指導主事とともに、「『総合的な探究の時間』探究的な学びの実現に向けた協働・共創プロジェクト」として実現。
2024年度、新たに鳥取県が参画し、去る6月28日に第1回の研修が開催されました。
清水 美春
地域を超えた協働・共創型研修の“真のねらい”とは
「探究的な学びの実現に向けた協働・共創プロジェクト」の一環として始まったこの研修は、各県の指導主事が地域を横断して教員研修をデザインするプロセスを通じて「探究的な学び」の本質を探究し、各県の職員研修に活かすことを目的としている。
スタートのきっかけは2022年度に高校探究プロジェクトが実施した「指導主事等対象のオンライン対話」。翌年の2023年度には、広島県立教育センターが企画の中心となり、広島県、青森県、大分県の3県の指導主事が協働・共創型研修を実施した。今年度(2024年)はさらに鳥取県が加わり、全4県の指導主事による「共創型研修わくわくチーム」(以下、「わくわくチーム」)が結成された。
わくわくチームは、年度末から年度初めの業務多忙な時期にオンラインMTGを重ね、今年度の全4回のワークショップ(WS)を計画。(昨年度の成果と課題についての振り返りは、ニュースレターVol.34参照)
そのWSの第1回が6月に開催された「Let’s本音で探究トーク!」である。
今回のWSの目的は、「探究的な学びに対する認識を見つめ直し、所属校の実践への意識を高めること」である。受講者に目指してもらいたいゴールを、「総合的な探究の時間や担当教科の実践において探究的な学びの実現へ向けて行動しようとする姿」に設定している。
本記事では、このイベントの様子や研修デザイン完成までのプロセスを通じたわくわくチームの振り返りと共に、「協働・共創型研修」における“真のねらい”についてレポートする。
6月28日(金)協働・共創プロジェクト ~Let’s本音で探究トーク!~
オープニングは、広島県立教育センターの長尾氏による「みなさんが教員を志したときに思い描いたわくわくする生徒の姿を実現できるのが探究的な学びであり、わくわくする探究的な学びを我々自身がわくわくしながら探究することがこの講座のコンセプトである」という挨拶から始まった。
まず最初のアイスブレイクでは「こんな授業はイヤだ!」のテーマに対して、「一方的に聞く」、「意欲が持続しない」などの意見が全体で共有されたのち、アドバイザーの西村圭一氏(東京学芸大学 高校探究プロジェクトリーダー)による講話が続いた。
受講者の対話ワークの前段階として、西村氏は講話「今、なぜ探究的な学びの実現が求められているのか」において、現代社会の複雑さや変化に対応するためには、深い理解と応用力がますます必要になるとして、その理由を以下のようにまとめた。
この講話の内容が受講者の記憶を呼び覚ますフックとなり、その多くがこれまで経験してきた学習場面を具体的に思い出したようである。その後に続く対話ワークでは、受講者同士の主体性に多くをゆだねる環境設定ながら、さらに探究的な学びに対する解像度が上がっていくような“問い”がデザインされていた。
ワーク①『え?これも探究だったのかな?「探究の芽」を共有!』、①‘『なぜ?それを探究だと思ったの?』、②『探究の芽を育てるために、授業でどのようなことを大切にしたいか』、③『新たな一歩を、わくわく宣言!』と回数を重ねるごとに、時間が足りないほどの盛り上がりを見せたことが受講者の感想にも現れている。
司会を務める小関先生(青森県総合学校教育センター)が、受講者を各ブレイクアウトルームに送り出す際に「答えを求めるのではなく、きれいにまとめるのではなく、成果物を仕上げるのではなく、本音を大事に」と声をかけていたことも印象的であった。
また、受講者による全体共有の時間では「探究にのってこない生徒には、まずお互いの信頼関係を築き、その生徒の興味を見つけて寄り添っていく姿勢でいる」「教員も楽しまないと、生徒たちは敏感に感じている。生徒に渇望感が生まれる仕掛けづくりが大切」などの対処法などが語られ、受講者の多くが画面上で深く頷く様子が見られた。この腹落ちした納得感が受講者の次なる探究的な学びを加速させると感じた。
ワークショップ参加者の感想
・探究に対する必要以上に堅い先入観をほぐしていただきました。ありがとうございました。
・現場の時はあまり「総探」に前向きではなかったですが、いろんな先生のお話を聞けて、もっと構えずにやれば良いのだと前向きな気持ちになりました。
・進学校であれば受験のことを意識し過ぎてしまうけれど、できることからやればいいんだと思えた。
・具体から始めるのではなく「観」から始まる。学力観、学習観、生徒観、から変化させると次の方法論につながると感じた。
・自分自身がまずはわくわくすること。探究をするための素地を大切にする。
・生徒に「右往左往の仕方を教える」ことの重要性を学びました。
・右往左往のプロセスにこそ学びがあるので、プロセスを生徒と楽しみたい。
・1主体性、2目的意識、3社会や日常への汎化、を意識して、生徒の考え方を広げるような授業を展開していきたい。
・総探が工業科の課題研究で置換されているが、モノづくり等に教科(理科)としてアプローチできることがないか考えていきたい。
・生徒が自走し、1つでも「わかった」を自ら掴み取る授業。
・2週間後に文化祭で模擬店を実施します。生徒が運営のことを自分たちで考えて行動できるように、教えすぎず、失敗も見守っていきます。
・「残す学び」の授業実践の実現に向けて、「今日はまだ黙っておこう」の姿勢の重要性を先生方に伝える。
アドバイザーの西村氏は今回のWSのまとめとして、探究の芽をより広く柔軟に捉えることの重要性や、教員自身も楽しみながら生徒のつぶやきや表情の変化をつかまえるきっかけづくりが大切であると語った。このWSのデザインそのものが、そのプロセスをたどっていると多くの受講者が気づいたことだろう。
研修デザイン~指導主事のエージェンシー~
後日、WSを企画運営した「わくわくチーム」の振り返りMTGでは、今回の成果として、砂岡先生(広島県立教育センター)「WSを通じて受講者の探究観が(より柔軟に)変容していく姿が見られたことがよかった」、小関先生(青森県総合学校教育センター)「プログラム構築の経緯に成果を感じた。受講者の反応を予測した事前ワークのおかげでビフォー・アフターを提示してもらえたことが運営側にとって参考になった」、長野氏(広島県立教育センター)「受講者のひとりが“具体な話ではなく、探究の核の部分について本音の心の中の内面で話せたことがよかった”とつぶやかれたことが印象的だった」などの感想が共有された。
また、藤塚先生(大分県教育委員会)が「そもそも今回のような研修に必要性を感じ、自主的に参加するモチベーションがある受講者なので、最後は本音でもっと話したい気持ちになった」と語ったように、今後の課題として「ワークの時間配分が短い」「話す内容の幅が広すぎる」「受講して欲しい人たちへの周知方法」「持続可能な運営方法」などの意見には、企画側がどのような意図をもって通年(全4回)のプログラムを考え、第1回を位置づけているかという思考プロセスをもっと積極的に提示していくことが全体の学びの質を上げるのではないかという提案も出された。
西村氏は、運営側の振り返りの内容がいずれも「受講者ファースト」の目線で語られがちな面に言及しながら、今回の研修の意義を次のようにまとめた。
「受講した方々の反応を振り返っての成果と課題も重要ではあるが、指導主事の皆さんのエージェンシーを高め、研修デザインの仕方のスキルアップの場になることも今回の目的のひとつ。打ち合わせから研修までをチームで実装し、振り返りまでの一連の流れが長期的に経験できるという稀有な場を通して、皆さん自身の学びや次の課題を話し合えると違った意味でのコスパの良さが生まれる」
そこには、普段から生徒主体の学びの最大化を考える教員ではあるが、今回のような指導主事のための学びの場においては「受講者ファースト」の目線以上に、意識的に「指導主事としてのエージェンシー」に向き合うための研修と位置づけることで、研修デザイナーとしての学びが最大化できるという期待が込められている。
研修自体が育っていく・・・
小関先生(青森)は、「パーフェクトな形で研修を迎えていない。けれど、受講者の先生たちと研修を終えた時にやってよかったと思えるものになっている。研修自体が育っていく」と手応えを口にした。
その思考プロセスは、未完成な部分を肯定的に受け入れ、柔軟にデザインできる余白として解釈できる視座を得たことで生み出されてきたものだろう。その余白を戦略的にデザインに落とし込めるようになれば、西村氏が昨年度の総括(下図)で語った「視座の上げ下げが自在にできるスキル」の獲得にもつながっていきそうである。
学校にある探究リソース「偶発的な集合体」
また、アドバイザーの藤村氏(東京学芸大)は、「受講者が講義の内容と自分の実践を反復しながら、考えを深めている姿が印象的だった。探究的な学びについての発言も良い内容が多かったが、自信がない部分や不安な面も見受けられ、それが現状ともいえる。所属先や勤務校で本音を話す場所がもっとあるとよいのでは」と振り返った。
今回のWSでも、やわらかい雰囲気が探究的な学びを生み出したことは確かであり、正解がないからこそ、対話を通じた本音のフィードバックや共感を得られる場所は貴重である。それとは逆に、正解主義にとらわれると思考は固まり、発言も慎重になり、グループで学ぶことの相乗効果は見込めない。今回のWSのように温かな学習環境を実装するプロセスを通じて、本音で語ることの効果や学びの深化を実感した原体験は、各所属県の教員研修にとっても有意義なものになるに違いないだろう。
また、授業づくりについても同様のことが言える。学校教育における生徒の学びの共同体は、共通の職業や興味関心、目的意識がある人間の集まりではなく、たまたま同じ地域で、同じ年度に生まれた偶発的な人間の集まりである。それは、探究につながり得るあらゆる事象に対して常に当事者と非当事者が混在し、視座の上下が混在していることを意味している。その偶発的な集合体を活かすためにはやはり、多種多様な価値観を前提とした、お互いの本音が話せる学習環境が提供できるかどうかが重要なポイントとなりそうだ。
地域を超えた指導主事集団「わくわくチーム」
最後に、このWSを企画した「わくわくチーム」についても言及しておきたい。
本記事を執筆する私の手元には「わくわくチーム」がイベント開催までに積み重ねてきた打合せ資料のデータがある。2023年度末に行われた振り返り資料から、今年度初頭の4月3日にキックオフした際の打ち合わせの資料などがなかなかのボリュームで収容されており、回を重ねるごとにプログラム内容の言い回しやキーワードが微妙に変化して精選されていくプロセスが記されている。業務多忙な中、2年にわたり協働・共創されたプログラムを紐解くと、そこには「探究的な学び」とは何なのかを粘り強く探究し続けた「わくわくチーム」の姿が浮かび上がる。
企画主催である広島県をはじめ、青森県、鳥取県、大分県の指導主事が、「負担感はないですか」「持続可能なものになっているかな」とお互いを気遣いつつ、これまでの学びの深化を喜びながらコミットし続けている取り組み。この「わくわくチーム」と名乗るメンバーの原動力はどこにあるのだろうか。
本記事で「探究」に次いだ頻出ワード「わくわく」。
日本語で「わくわく」としか表現できない心踊る状態がある。不確実性の高い未来に期待しているときに活用される「わくわく」。この語源は、地中から水が溢れ、湧きあがる様子からきているとのこと。
探究の芽とは何か、エージェンシーとは何かを探るヒントがこの「わくわく」の響きにあるのではないだろうか。
探究の芽(はて?)から始まる、湧き出る知的好奇心や違和感と共に、さらに深掘りしたくなる問いにぶつかった時に「探究」は止められなくなる。その源泉を自ら感知する力と行動に移していく力を、西村氏は「エージェンシー」と表現する。エージェンシーなき探究は、生徒の“やらされ感”や教員の“負担感”を生み出す。それはなにも探究に限ったことではない。
今回のわくわくチームメンバーの表情や語りから伝わる「わくわく」の正体は、このプロセスの先にある新たな視座のステージに上がった自分の姿を想像し、その実現に着実に一歩ずつ近づいている手応えであり、正解がない楽しさであり、まさに探究的な学びの原動力そのものだろう。エージェンシーを発揮し、自らの問いに対して1ミリでも前進できた成功体験は、たとえそれが小さなステップでも次なるモチベーションを生み出す。この手続き(学び)の先に、自分が知りたいものがあるという期待こそが探究を自走させる。
今後もこの「わくわく」が、どのような軌道修正のプロセスをたどり、どのように各県の教員研修に実装化され、どのような生徒の探究的な学びに繋がっていくのか、長期的に注目していきたい取り組みである。
研修デザインの協働・共創メンバー大募集!
全国の指導主事の皆さま、教員研修のデザインを「わくわくチーム」と協働・共創しませんか。今後のWS(第2・3・4回開催/単発参加可)の受講をご希望の方や研修デザインの仕方を学びたい指導主事の先生方のご参加をお待ちしています
ご質問やご相談などがございましたら、高校探究プロジェクト事務局までお問い合わせください。
記事を書いた人
清水 美春
滋賀県出身。元公立高校教諭として19年間勤務後、2021年からフリーランスとして活動。教員時代は青年海外協力隊ケニア派遣、滋賀県教育委員会事務局、県文化スポーツ局、夜間定時制高校などで多文化共生への理解を深め、公衆衛生や性に関する学校講演活動や、国際理解、キャリア教育、スポーツ、ウェルビーイングなどのさまざまなイベントのコーディネートに従事。講演活動はNHK等メディア掲載多数。立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程在籍。専攻はセクシュアリティ、文化人類学。
